東學黨の宣言
東學黨の戰地に於る進退驅引の巧みなること今日の朝鮮官兵
の決して企て及ふところにあらずしかして彼等は官吏を見る
ときは容謝なく之を捕縛し首班の者は之を殺戮し官衙と見れ
ば之を破壞し或は之を燒き拂ひ其蓄ふるところの兵器金糓を
奪掠して軍用に供し衣類家具什器等は悉く之を貧民に施與し
專ら人心を收攬することを務め其楊言するところ斥倭斥洋の
旗を樹つるといふにありと雖決して日本人を退け歐米人を攘
ふの事は彼等の眞意に非るべし元と此東學黨なるものは學派
の異同より生じたる一朋黨なりしも今日に至りては朝鮮の現
政府卽ち閔族の施政に對するの不平黨なるを以て閔氏の一族
を倒さゝればたとひ一時は鎭靜することあるも到底再燃する
ことあるや必せり而して彼等が暴發せし以來茂長(古阜を厄る
日本里程八里餘)に於て人民に告げたる檄文は實に左の如しと
云ふ
人ノ世ニ最モ貴キ者ハ人倫アルヲ以テナリ君臣父子ハ人倫
ノ大ナル者君仁ニ臣直ニ父慈ニ子孝ニ然ル後乃チ國家ヲ成
シ能ク無疆ノ福ヲ建ツ今我 聖上仁孝慈愛神明聖睿賢良正
直ノ臣之カ翼贊ノ任ニ當ラハ堯舜ノ化文景ノ治日ヲ指テ希
フへシ矣今ノ臣タルモノ國ニ報ルヲ思ハズ徒ニ祿位ヲ竊ミ
聰明ヲ掩蔽シ忠諫ヲ容ルヽノ士ハ之ヲ妖言ト謂ヒ正直ノ人
ハ之ヲ匪徒ト謂ヒ內輔國ノ才ナク外虐民ノ官多シ人民ノ心
日ニ益流變シ入テハ生ヲ樂ムノ業ナク出テハ軀ヲ保ッノ策
ナク虐政日ニ肆ニ怨聲相ヒ屬ス君臣ノ義父子ノ倫上下ノ分
遂ニ壞テ而シテ遺スナシ管子曰ク四維張ラズンバ國乃チ滅
亡セント方今ノ勢古ヨリ甚シキモノアリ矣公卿ヨリ以下方
伯令守ニ至ルマデ國家ノ危殆ヲ思ハス徒ニ己ヲ肥シ家ヲ潤
スノ計ヲナシ銓選ノ門ハ視テ生貨ノ路ト作シ應試ノ場ハ擧
テ交易ノ市ト化ス許多ノ貨賂ハ王庫ニ納レズシテ却テ私藏
ニ收メ國ニ積累ノ債アリテ之ヲ償フノ道ヲ知ラズ驕侈淫逸
畏忌スル所ナシ八路魚肉萬民塗炭守宰ノ貪虐良ニ以ヘ有ル
ナリ之ヲ奈何ゾ民窮且ツ困セザランヤ民ヲ國ノ本トナス本
振ハザレバ國傾カン輔國安民ノ方策ヲ念ハズ外卿第ヲ設ケ
惟獨全ノ方ヲ謀リ徒ニ祿位ヲ竊ム豈此ノ如キノ理アランヤ
吾徒草野ノ遺民ト雖君ノ土ヲ食ミ君ノ衣ヲ服ス坐ラ國家ノ
危キヲ祝ルニ忍ヒズ而シテ八路同心億兆詢議シ此ニ義旗ヲ
擧グ輔國安民ヲ以テ死生ノ誓トナズ今日ノ光景警該ニ屬ス
ト雖決シテ恐動スルコトナク內各各其業ヲ安シ共ニ昇平テ
祝センノミ云云