上國大人行陣善政碑を斫る
恩津縣城に近づきしより、路傍往往木碑の新に建てるを見る、碑面題して上國大人
行陣善政碑と曰ひ、題字の兩側亦詩句を列べて、頻りに淸將の功德を稱揚せり、是れ
蓋し日前葉聶兩將の騎を連ねて全州に入るたるを感謝する者にして、必然地方官
が他に對して媚を獻ぜん爲めに、人民を督促して特更之を建てしめたるものなら
ん。然るに俠徒の之を一見するや、憤然叫んで曰く、朝鮮の病根は實に此間に在り、
我徒乃ち先づ彼等の所謂る上國に加辱して、毫も其恐るべき所あらざるを示さゞ
るべからずと、各自直に腰間の劍を取り、斬つて之を寸斷し、更に足を擧げて泥中に
蹂躝す、縣民望み見て愕然、舌を吐く者三寸