天佑俠一行を生擒す
俠徒が運搬機關の奪略に逢うて全州城內に困厄せる折、觀察使は在釜山日本領事
に打電して曰く、當監營は謀を搆へて天佑俠十四名を生擒せり、貴官の速に巡査を
派して之を受取られんことを乞ふと。領事は突然此信に接し、心竊に疑ふらく、彼
等豈に容易に韓人の手に落つる者ならんや、蓋し必ず故あるべしと。乃ち答電し
て曰く、俠徒生擒の勞、謝するに絶えたり、小官當に兵士を派遣して之が引渡を受く
べしと。然るに觀察使は此返電を得るに及び甚だ不安の狀あり、蓋し當時淸兵の
牙山に駐屯せるが爲めに、若し日兵をして全州に入らしめば、或は朝廷の譴責免れ
ざるを恐れたる也。乃ち再電して曰く我が發遣を乞ふ所の者は、兵士に非ずして
巡査なり、冀くば遲延なく卽時巡査を派せられよと。領事又之に答へて曰く、國約
規定する所を見るに、尋常行政上の處置に對しては、貴官自ら匪徒引渡の義務を負
へり、故に我より巡査を派するの要絶えて無し、若し夫れ其以上の武力を具ふる者
に在つては巡査の力能く之を傳致すべからず、發兵の要於是乎あり、敢て分明の貴
答を煩はさんと。旣にして觀察使三電して曰く、俠徒十四人、傍若無人の行動を恣
にして、全州城を脫し去り、其往く處を知らずと。於是領事抱腹哄笑して曰く、我果
して先見の明あり、觀察使が所謂る生擒とは、却て是れ歡迎の意味ならんも知るべ
からずと