全州城の鐵門破る
全州城は最早二里の近距離に在り、一行は是非今夜の宿留を城內に定めて京兵▣
日の模樣を探らんと欲す、然れど全州城は實に全羅官軍の本據にして又是れ一道
五十六州の觀察府、之を守るに精銳無雙なる江華兵五百人を以てし、兵器には李鴻
章贈來の新式五連發モーゼル銃五百挺あり、其防備の堅固にして容易に犯すべ▣
らざるは、勿論と云ふべし故に今東徒の一味たりし天佑俠の寡勢を以て、漫然之に
臨まんとするは、殆ど自ら死地に陷る者に非る無き歟、去れど天佑俠は本と思慮▣
密の士多くして暴虎憑河の人少し、而して全州城の虛實と官兵の價値とは疾くよ
り槪ね之を究むる所あり、是の故に今將に危地を踏んで敵地に入らんとするに方
りても、決して血路あるを知らずして然るにはあらず、彼等は特に氣を以て敵を敗
るの術に通ぜり、其神色自若として死生の間に出入するは敢て怪むに及ばず、且つ
見よ、開門使として派遣せられたる時澤大久保吉倉、の三人が、當夜如何に城門に至
りて大膽に官兵と應答を試るかを