覇王臺上天佑俠の感慨
是に於て臺畔の俠徒は互に嗟嘆の聲を漏らして曰く、嗚呼天下を震撼すべき壯絶
快絶の事業を爲すは夫れ唯專制國に在る哉、然る所以の者は、勝てば官軍、負くれば
賊、事業と首級とは終始相伴隨して爲す歟、死す歟の二途の外、復た他に血路の存す
る無きを以て也、思ふに彼れ全琫準亦是僅僅五尺の男兒、而も一呼すれば、八千の子
弟立ろに身邊に集り、再呼すれば、其威信全羅五十六州の上に加はり、王權も恣まに
之を制馭する能はず、守令も其前に至れば膝行して進まざるべからず、而して獨り
傲然として萬人の上に橫行し、天地の間を踐蹂す、豈に丈夫の眞面目を得たるもの
に非ずや、我等半生の讀書終に遠く此未開國田野漢の功業に及ばず、恥辱恥辱、自今
大に發憤する所なかるべからずと
天佑俠一同は東學軍總督と一月後の再擧を盟約して互に一たび相分るゝに至れ
り、是れ必ずしも永遠の訣別なるにはあらず、然れども時勢の變轉は不幸遂に兩者
をして、此後復た行動を俱にするの機會を得せしめざりき、玆に特に同軍に關する
二三の逸事を揷む者は世人が常に彼等を目して世間尋常の暴徒とするの誤解を
破り、一は以て朝鮮近代の傑物たる全琫準の英魂を慰めんと欲すれば也