第一戰の全局觀
內田の遊擊隊と、白水の南面軍とは、漸く勝利を博したるが如きも、千葉の西面軍は
敵の爲めに防築の嶮要を先制せられて、進攻其機を失ひ、時澤の東面軍は、輕輕兵を
進めて、戰頻りに利あらず、大原の北面軍は優勢の敵の包圍する所となりて、孤壘を
堅守するに過ぎず、黨軍大體の戰況は未だ全敗には至らざるも、決して全勝とは稱
すべからざる也、況んや本營に於ては內田が道に迷ふてより遊擊軍の動靜を詳に
せず、或は其鄧艾的陣法を以て、必ず快捷を博すべきを信ずるも時に、或は全軍覆沒
の慘に逢へるに非るやを疑ふ者あり、內田が戰鬪の何如は實に全軍の死命に關す
るもの少なからず、敗か勝か、其消息固より究めざるべからざるも各面刻下の危急
は力を他に分つの餘裕なし、乃ち急に白水の軍を玉果より招還し。之をして東面軍
に赴援せしめ、而て後別に遊擊軍の動靜を探らしむるに決す