南面軍の進退
大將白水健吉、副將日下寅吉は韓將朴鄭の二氏及び兵一百人を率ひ、拂曉急に走せ
て牛峙の要所に至る、峙畔未だ一京兵の來り屯する莫し、衆天を仰ぎて其先制の地
を與へたるを感謝し、直ちに峙下に就て地勢をトし、地雷を沿道各處に伏せ、徐に敵
の到るを待つ、暫くして前程を望めば、各色の旗幟煙樹の間に翻飜として次第に我
に來り迫らんとする者の如し白水乃ち令を傳へ、妄語を戒め寂然無人の態を裝ひ
突如として敵の不意を襲ふべき用意を整へしむ、旣にして敵兵衆を擧げて峙下に
來り屯し、將に峙に攀ぢんとして、先づ伏兵の有無を探らんとする者の如し、此時日
火急に數兵を遣はし火を地雷に導かしむ、忽然として百千の大雷地底より爆發し、
轟然耳を貫き、天地を劈て分斷たらしめんとす、千餘の京軍は錯愕周章を極め、叫喚
煩悶して盡く䑃䑃たる硝煙の中に在り白水等機に乘じ兵を悉して峙上より直下
し、四面より包んで之を鏖殺せんとす、京兵一望、膽喪し、心消え銃を捨て服を脫して
走る、白水復た長驅、行行敵の傷を救ひ、降を容れ、終に玉果縣城に進擊し、兵を交へず
して其官衙を占領し、之に據つて優然他面の戰報を待つ