兵を四路に分つて京軍を迎へ討つ
全琫準が四人に聽かざる所以は、決して彼に野心無きが故に非ず、彼と是とは鄕國
を異にし、感情を異にし、言語習慣を異にし、而して特に初對面にして事情相通ぜざ
るが爲め也、彼れ豈に初對面を以て能く天佑俠の價値を知んや、彼が輕輕之に從は
ざるは偶偶以て彼れの大人物たるを知るに足る、天は決して天佑俠を捨てざる也、
我委員は全の確答なきを憤慨し、今や決然席を蹴つて別れ去らんとす、時に忽ち一
封の書あり、急使を以て八將の手より全に寄せらる、默默として枯死せるが如き全
は豁然として其目を見開き、徐ろに書を取て之を讀まんとす、讀むこと一二行にし
て全の顔色少く動き、辭を改め、急に四人に謂つて曰く、我今實に四公に謝す、前言は
稍や戲れに過ぎたり、我不肖と雖も豈に容易に濟民の志を擲たんや、唯王命あるが
爲めに已むを得ず、一だび和を官兵と講じたるのみ、然るに今八將の飛報を見れば
官兵自ら王命に乖きて四路より再び我を來り攻め、江華兵五百人、最新のモーゼル
六連銃を提へて之に交り、其勢擧つて五千名三五熟練の將隊伍の中に在つて之を
指揮すと云ふ、我れ固より交戰を好むに非ずと雖も、敵自ら襲來すれば復た如何と
もすること莫し、公等旣に我と義擧を共にせんと稱す、事を共にするは卽ち願ふ所
と雖も、殊功あるに非れば特種の待遇を與へざる、是れ我軍律なり、幸ひにして今敵
の來り迫るを聞く、公等宜く我八將と相議し、各各一方に將として一大快戰を試み、
以て偉功を建て、日人の勇武を我が陣頭に發揮す可し、乞ふ之より八將を招來し、速
に共に對戰の策を決せん乎と、於是全は急使を馳せて八將を呼び、四人は更に殘留
せる諸士を招き寄せ、卽時二十三個の英雄一閑房に相會し、着着として進取退嬰の
軍議を決す、其決議として各方面部署の定る所は左の如し
本營 總督 全琫準
軍師 田中侍郞 鈴木天眼
吉倉汪聖
遊擊軍 兵七十人 韓將 金氏
大將 內田甲 副將 西脅榮助
東面軍 兵一百人 韓將 斐氏 全氏
大將 時澤右一 副將 井上藤三郞
西面軍 兵一百人 韓將 崔氏 安氏
大將 千葉久之助 副將 大久保肇
南面軍 兵一百人 韓將 李氏 趙氏
大將 白水健吉 副將 日下寅吉
北面軍 兵一百人 韓將 朴氏 鄭氏
大將 大原義剛 副將
輜重軍 兵五十人
大將 大崎正吉
赤十字軍 兵三十人
大將 武田範之