閑房を訪ふて四人全と密議を凝らす
午後四時頃に至り武田、鈴木、田中、吉倉の四人は彼我連盟談判委員として豫め充分
謀議を定め、而る後全を其本營に訪ふ、此時全は圖書を左右にして獨り其閑房に安
坐し、八大將は出でゝ、前後の各營に兵士の訓練を行ひ、四五の有司は閑房の左右兩
室に在りて軍旅の事務を處辨せり、全は四人の室に進むを見、靜かに目禮して坐を
請へり、四人仍て全に告げて曰く、我等今日公を此閑房に訪ふ、特に機密の審議すべ
き者あれば也希はくば先づ左右の人を退くるを得んと、胸中一點兒の疑心を懷か
ざる全は、悉く隣房の諸有司を去らしめ、更に部下の親兵を庭上の要所に配置し、雜
人間細の潛入して、私かに謀議を漏聞せんことを防ぎ、警戒頗る嚴密なるを示せり、
是に於て乎、四人意を安んじて談判の端緖を開かんとす