天佑俠東學黨の陣營に移る
一行は旣に東徒の日本人に向つて害意なきを知れり、其衷心より來陣を勸むるに
對して、何如んぞ無下に之を拒絶すべけん、次日乃ち衆を擧げて其陣營に移ること
に決し、朝飯を終へ行李を調へて靜に他の使節の到るを俟つ、旣にして使節は來れ
り、衆欣然として馱馬を勒し、威風凜凜陣營に向ふ、此日彼は些の示威的行列を設け
ず又た門に入て虛喝の發砲を試むるの迂愚をも取ざりき、一行は數多の黨人に圍
繞せられ、意氣揚揚として階を經て殿に上れり、殿堂は卽ち黨人の一行に貸與せる
所、郡の本衙と全琫準の本營との中央に在り、大房一、小房一、共に其左右に屬し、中房
には四五十疊敷の大廣間あり、結構莊宏、室室淸潔、實に一行に對する無上の好館だ
り、而も一たび殿庭に出でゝ四面を望めば、左右前後皆是れ東黨の支營にして、旗影
劍光、角音蹄聲、雜然又た擾然として我が一行を圍繞せるを見る