全總督大に三士を饗す
少刻にして酒肉は席上に配列せられたり、東方血性の俠男子は、鷄籠八道の重患を
雙肩に擔はんとする無雙の傑士と肘を取て酌めり、陶然として醉ひ、豁然として語
る所、正に靑梅酒を煮て當世を談するの槪あり、旣にして晩餐も亦供せらる、陣中な
がら流石に馳走と鹽梅とは、其出來得べき丈の善美を盡したるが如し、全琫準語つ
て曰く、公等三位幸ひに來つて弊陣に駕を臨めらる、房舍坐食の事、聊か以て客中の
適意を得るに庶幾しと雖も、爾餘諸公に至つては、或は恐る旅館の不潔、永く足を駐
むる能はざらんを、乞ふ之より直ちに迎へて玆に粗餐を獻じ、且つ宿房を我、陣の最
佳處に選び、聊か一黨接賓の禮意を致さんと、全總督の厚意實に多とすべし、されど
夜は旣に太く更たり、三士は辭を叮重にして今夜の接遇を謝し、更に明朝を待て黨
陣に移るべきを約し杯を撤して宴席を辭せり