南原城下に於ける天佑俠の活動
南原客舍、一行は旣に十分其の渴を醫し得たり、乃ち堤より下つて城中に進まん
とす、壘壁に沿ふて走り、古祠に就て曲り、橋を越へ門を過ぎ漸く城中の一客舍に
到る。客舍極めて矮小、極めて不潔、一行の心に滿たぎるもの多し、況んや城民の雲
集して物珍らしき他鄕の客を見物せんとするあり、其五月蠅きこと名狀すべから
ず、是に於て吉倉は鈴木と共に晩涼を追ふて府使を官衙に訪ひ、前夜雲峰に於ける
が如く、官衙の一房を貸り得て爰に宿留せんとす、旣に官衙に達すれば、次官出でで
二人を迎へ、府使病んで接待の禮を盡し難きを陳謝す、蓋し一行の軍容盛にして沿
道を慴伏し來れるを傳聞し、恐怖して相面するを避けたる者なり、韓國官人の怯懦
なるは必ずしも獨り南原府使に限らず