雲峰城留守の觀迎
雲峯は高原の都會として朝鮮第一なり、地位旣に高原の山河を占む、風景亦自ら凡
を拔しものあり、故に一般の韓人は此縣を稱して天下の靈境となす、靈境の廣褒東
西三里を過ぎ、南北二里を超ゆ、縣下連邑人情極めて平和なり、一行の城下に到るや
先づ縣衙に就て宿留の佳所を問ふ、縣官迎へて曰ふ、民家狹汚、以て貴人を宿するに
足らず、諸豪傑若し我接待の到らざるを咎めずんば、乞ふ公廳に於て一夜の休眠を
試みよ、是も亦旅中の一談抦たるべしと。一行固より官家の淸閑にして留宿に可
なるを知る、唯官家の容易に之を許さゞるべきを信じ、日前未だ曾て其談判を試み
ざりし也、然るに今や彼先づ歡迎の意を漏らして一行に應接する所あり、其深情の
何如を詳にせずと雖も、天の幸する所、從はずんば其罪必ず輕からず、一行乃ち得得
然として衙內の廣房を借り、遠慮なく美酒佳肴の接待に應じ、快心して椽上の涼床
に眠れり