農は天下の大本也
將に雲峰に入らんとする處、一行暫く郊外一大古祠の傍に在つて休憩す。一望す
れば野水曲折して長蛇の走るが如く、田夫野人、爰に牛馬の群を飮飼ひ而して後
各各堤下に就て少憩す、連山亦遠く雲峰の漠漠たる大高原を繞り、炊烟所所村里の
間に搖曳し、山光水色樹林城樓、相反映して畵圖の如く然り。偶偶驟雨あり。野外よ
り起つて祠頭に及ぶ、驟兩
逕の邊より出で來る、一行皆眼を之に注ぐものゝ如し、忽ち見る一條の大旗飜飜
として空に流れ、村童野老互に之を擁し、意氣揚揚として俄かに四五十步の間に顯
はる、旗上に書する所を一讀すれば曰く、農者天下之大本也と、一行始めて其豐年の
祈願式たるを知り得たり、唯其太皷の音何となく法華宗の南無妙法蓮華經に似て
オカシ味あるを覺ふ