雷彈一發滿城の士民を驚死せしむ
俄然天落ち地陷る底の一大爆聲は、濠邊堤頭より發し來つて滿城士民の鼓膜に轟
き渡れり、夫と同時に今が今まで堤上に亭立したりし大柳樹は、幹裂け皮破れて全
樹濠中に飛び去り、首を回らせば、依然として存する所のものは、讒かに其壞裂せる
根株あるを認むるのみ、長堤は其全影を潰破せられて土砂は急雹の如く、四方に逬
り、一陣の怪風、攸忽起り來つて鬼氣暗然、群集の間を襲ふ、城民の望觀せるもの、先づ
爆聲を聞きて、膽寒へ、氣拆
く失ひ、更に怪風の襲ふ所となつて戰戰恐恐心の身に添ふを覺へざるに至る。曩
に吶喊して一行に肉薄せんとしたるもの、亦城民と共に狼狽して顚倒し、匍匐して
潰走し、當初蟻の這入る隙間もあらざる計り、人を以て埋められたる堤上堤下は、今
や大風雨後の乾坤の如く、寂然として一兒童の聲だに聞かず、寥然として一白衣の
影だに無し。人或は史を讀んで蜀將が斜谷に魏の追騎を殲殺せる所に至り、案を
打つて快を呼ぶを禁ぜざるあらんも、天佑俠が晉州に於ける奇變百出の行動は、更
に又數段古人を凌駕する所あるを思はざる可らず、同く是れ火計を用ゐて重圍を
脫する也、而して俠徒の智は敵味方の一兵一卒を傷はずして能く其目的を達する
を得たり。顧ふに連騎十一名は個個是れ龍虎の將、個個是れ姜維臥龍の材、其扶韓
の雄略は卽ち他が漢室中興の宏圖たらずんば非ず、而して日後全州城門破りの壯
絶快絶なる彼等の活劇に至つては、千古の奇書たる三國史中に在つても、亦之が類
例を求むべからざる也