騎を連ねて捕盜衙門に上る
裨將尋思すること少刻、漸くにして先導たらんこてと諾す。衆乃ち堂を下つて庭
上に立ち、其曩に募集し來りたる鞍馬を引きて、皆之に據り、卽時十餘人、鞭を揚げて
一齊列を整へ、前騎後騎は、錦旗各各一條を飜へして軍容の盛なるを示し、肅肅然、揚
揚乎、輕驅して幾街街を回り、數萬群集の喧騷を意とせず、豪然として他が案內する
所の官衙に達せり。仍て門を入つて見れば卽ち是れ兵使の營にあらず、掾上額あ
り、題して捕盜衙門と云ふ、衆屢屢他の欺く所となりて憤ること甚し、裨將を呼んで
大に之を詰らんと欲すれば、旣に逃れて其何れに在るを知るべからす、一行忙然狐
狸に致されたるが如し、是に於て已を得ず、馬を堂下に繫ぎ、石階を上り、正殿に進み
爰に逍遙して兵使を待つこと多時、兵使竟に來らず、裨將亦顯れず、其他一人の出で
て應接に任ぜんと欲するもの莫し、一行再び落膽、筆を執つて空く事由を壁上に錄
し、階を下つて終に門外に去らんとす