蠻人に對する決心
元來慶尙右道は人氣一帶に慓悍にして外人に好からず、日客の行商して爰に至る
もの往往土民の迫害を蒙り、侮辱を受くる亦少なからず、一行の志は此際國家の爲
めに此弊を改め、威を沿道に示して、永遠其無禮を再せざらしめんと欲するに在り、
昨中途に於て一小鬪の發したる、亦此意に外ならず。蓋し蠻人は國家と個人との
區別を知らず、從つて國家に對するの怨恨を却て怨恨なき個人の上に報ひ國家に
對するの輕侮を却て關係なき個人に加ふる等の例は、日常絶へず見る所なり。故
に反面より之を言へば、蠻國に入りたる個人は、其身全權公使たらずと雖も、事實に
於て全權公使の位地に立てるものなり、雙肩に一國を荷ふの責任あるもの也地位
責任旣に斯の如し、個人の榮辱は決して個人限りの榮辱として見るべからず、乃ち
當時天佑俠の決行せる所必ずしも國家に大功なくんばあらざる也、